7/9
前へ
/172ページ
次へ
「お兄さん。どうかしたの?」 少女は身を丸くして男の顔を覗き込んだ。 すると男はゆっくりではあるがその顔を上げ、朧げな視線を少女に送った。 「今日はアナ様の日だよ。アナ様のご生誕をみんなでお祝いするの」 少女がそう言ってにっこり微笑んでも、その男はぼんやりと少女を眺めるだけだった。 「そんな顔してちゃ、アナ様ががっかりされるわ。 そうだ。エミリーがお兄さんにプレゼントをあげるね」 少女は何かいいことを思いついたようにパッと顔を輝かせると、コートのポケットをまさぐり、キャンディーを一つ取り出した。 そしてそのキャンディーを男の目の前に差し出す。 「今日は、幸せになってほしい人に贈り物をする日でもあるのよ」 少女がにっこりと微笑み掛けると、男は虚ろな視線でそのキャンディーを静かに受け取った。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加