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ふいに剣心が尋ねてきた。
左之助は冷めてしまったお茶を、一気に飲み干して呟いた。
「嘘をつくってのは、結構ツラいもんだよな。バレちまったら、それなりの報復を受けるだろ。自分自身にも罪の意識が残るっつーか、後味悪いしよ」
「…左之は嘘でもついているでござるか?」
「俺は嘘をつくのが下手なんだよ」
剣心は妙に納得したように頷いた。
「でも、嘘をつくからには、それなりの理由がござろう。例えば物事を隠したい時、自分を偽りたい時。だからと云って、良いことではないでござるが、つくからには本人も必死の覚悟でござるよ」
しばらくの間、考え込んでいた左之助だが、突然何かを思い出したように立ち上がった。
「なぁ、剣心。真鶴の屋敷って知ってるか?」
それに答えたのは薫だった。
「私、知ってるわよ。そんなに目立った場所にあるお屋敷じゃないけど、何でも小さな売買の仕事から始めて、貿易商として成功したそうよ」
それがどうしたのか?と、いうような三人の視線をよそに、左之助は何やら決心したらしい。
食べかけの羊羹を口に放り込むと、理由も言わぬまま、さっさと表門を出ていった。
ちょうどその時、周りの景色に目も呉れず、神谷道場に飛び込んできた客人は、出てきた左之助と真っ正面からぶつかって尻餅をついた。
「おっ、すまねぇな」
「いえ、こちらこそ…」
ふと、目が合って二人は同時に驚いた。
「あんたは、この間の…。どうしてこんな所にいるんでぇ」
のんびりと話しかける左之助とは対照的に、慎太郎はひどく慌てている様子だった。
いつもならきちんとした服装も、髪型も、今日に限っては目を見張るものがある。
「良かった‥。あなたを捜していたんです。赤べこの関原さんって方に聞いて、ここじゃないかって。妹が、菖華が屋敷を出ていってしまったんです。それで、菖華と関わっていたあなたなら、居場所を知っているかと思って…。妹から何か聞いていませんか?」
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