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「はぁー…」
天気の良い空を眺めつつ、左之助は考え事をしていた。
濡れ縁にどっかりと腰を下ろして、さっきから溜め息の連発である。
「嫌ぁね、左之助ったら。溜め息なんてついちゃって、どっか体の具合でも悪いの?」
お茶菓子を持って部屋の奥から出て来た、薫の最初の一言がこれである。
「きっと、腹が減って拾い食いでもしたんじゃねーか」
弥彦がカラカラ笑いながら、左之助の顔を覗き込んだ。
「薫殿も弥彦も、それじゃあ左之が可哀想でござるよ。拙者が思うに、賭博で負けたとか」
洗濯の手を止めて、剣心がニッコリと笑って言った。
「だーっ、もう、さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって。ゆっくり考え事もしてられねぇぜ」
「だったら自分の家ですればいいじゃない」
「‥‥‥」
そりゃあ、そーだけれど。
左之助は黙り込んだ。
確かに人様の家である。
東京下町にある、ここ、神谷道場は左之助の住む長屋と程近い場所にあった。
そんなこともあってか、外出した時には必ずといっていいほど、寄り道してしまうのだ。
その上、食事にありつけるともあれば、収入のない左之助にとって好都合である。
今日も何気に、しかも運良くお茶時に訪ねてきてしまった彼は、羊羹を食べることは出来たが静かに考え事をすることは出来なかった。
「しかし、左之が溜め息など珍しいでござるな。物思いにふけるような事でもあったでござるか?」
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