嘘つき少女

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季節は冬。 朝、長屋の外に出てみれば、真っ白に霜が降りていた。 凛とした冬の空気は、眠気覚ましにちょうど良い。 相楽左之助は大きく伸びをした後に、ズボンのポケットに手を入れた。 昨日の博打で、当然ながら持ち金はない。 それでも勝手に腹は空くのだから、これまた迷惑な話しである。 「またツケが増えちまうけど、仕方ねぇか。やっぱり寒いときには牛鍋だろ」 牛鍋屋『赤べこ』は、左之助、常連の店である。 とは言っても、まともに代金を払ったことがないから、食い逃げに近いかも知れないが。 この空腹を満たすためには、仕方のないことだと割り切ってしまえば、一度も二度も同じである。 左之助は悪びれる様子もなく、店の前まで来ると、堂々と暖簾をくぐった。 「いらっしゃいましーっ!」 店内によく響く、元気な声で出迎えたのは、店員の妙である。 「よぉ」 軽く声をかけて座敷に腰を下ろすと、いつものように妙が注文を聞きに来る。 「おはよう、左之助さん。今日は随分と早起きやね。今日は何にする?」 「んー、鍋を頼むわ。で、また金ねぇからツケといてな」 分かってます、とばかりに妙はお茶を置いて、店の奥へと入っていった。 左之助は熱いお茶を啜りながら、店内を見回した。 同業者からも評判の良い『赤べこ』は、いつもお客でいっぱいだ。 今日のような寒い日には、特別忙しい。 忙しく動き回る店員達を眺めつつ、左之助は他の客の雑談を聞いていた。 別に人の噂話しなど、どうでも良かったが、鍋を待っている間の暇つぶしにはちょうど良い。 「…にしても、本当にくだらねぇ話しばっかだな。ま、聞かなきゃいいことなんだけどよ」
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