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手に持った湯飲み茶碗を弄びながら、残りの茶を啜って、おかわりを頼もうとした。
そのとき。
店の暖簾をくぐって、ひとりの少女が足早に入ってきた。
「いらっしゃいましーっ。お客さん、いま、満席なんよ。ちょっと待っててもらえます?」
妙の声を無視して、少女はズンズンと店の奥の座席まで来ると、雑談に夢中な男たちの前に立った。
呆気にとられている男たちに、お構いなしで、履き物を脱ぎ捨て座敷に上がり込んだ少女は、一息ついてから大声で叫んだ。
「とうとう見つけたわよ!許さないんだからね。お食事中の皆さーん!この人たちは、か弱い乙女に破廉恥な行為をしました。私はこの目でちゃーんと見ました。こんな事が白昼堂々と行われていいと思いますか?」
「このっ…アマ、なに言ってやがんだ!」
突然の出来事に男たちは狼狽えて、少女の肩を強引に掴むと、口を押さえつけた。
咄嗟に、少女は男の指を噛む。
あまりの痛さに顔を歪めて、男はその手を離し、よろめいた。
「いい加減なことばかり言いやがって。たとえ小娘でも許さねぇぞ!」
男たちは少女を囲むと、胸倉を掴んで手を振り上げた。
‥殴られる。
少女は目をつぶって歯を食いしばった。
瞬間、呻き声を上げて座敷に倒れ込んだのは、少女ではなく、殴ろうとした男のほうだった。
額を押さえる男の足下には、空になった湯飲み茶碗がひとつ、転がっていた。
「おいおい、えらい騒ぎじゃねぇか。ここは牛鍋屋だぜ?喧嘩だったら表でやんな。しかし、嬢ちゃん相手に本気になるたぁ、見逃しちゃおけねぇなぁ」
「なんだ、貴様!俺たちに文句をつける気か!?」
「俺の喧嘩を買うのか、買わねぇのか、どっちだ?」
「クソッ、表に出やがれ!」
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