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座敷に取り残された少女は、思ってもみなかった事の成り行きに、驚いていた。
そんな少女の肩を、左之助は軽く叩いて不敵に笑う。
「詳しいことは知らねぇが、ここは俺に任しておきな」
今や、たくさんの野次馬たちで囲まれた『赤べこ』のある通りとは、全く逆の方向をひとりの青年が歩いていた。
外見は痩身で、整った顔立ちは大人びた印象を与えるが、先月、齢十九になったばっかりだ。
身なりからいっても、それこそ普通なのに、動作のひとつひとつには品位があった。
青年は手にした町中の地図と、建物を見比べながら、先へと急いだ。
とは言っても、一週間前に横浜から東京へ来たばっかりで、まだ右も左も分からないから、ひとつの通りを探し出すのも四苦八苦である。
途中、店屋に立ち寄っては、自分のいる場所を確認する。
「参ったなぁー‥。話しで聞いてたけれど、こんなにも東京の町が広いなんて、思ってもみなかったな。早く真鶴の屋敷に戻らなきゃ、また叔父さんに何を言われるか…」
きょろきょろしながら歩いていると、青年の脇を男たちが駆けていく。
「おいっ、赤べこの前で喧嘩だってよ」
「何でも、すげぇ強い男がいて、ひとりで数人の男を倒しちまう勢いなんだと」
「そりゃあ、楽しみだな。急ごうぜ!」
青年は、すぐに自分の持っていた地図で『赤べこ』という店を探した。
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