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だからといって、青年は野次馬ではない。
ただ、そこの場所なら人も多いし、尋ね事をするのにはちょうど良いと思ったからだ。
「もう終わりか?まだ、準備運動にもなっちゃいねぇよ」
少女が心配する必要もないうちに、呆気なく喧嘩の勝負はついた。
「ちくしょう!覚えてろよ!」
負けて立ち去る者の、お決まりの台詞を吐いて逃げていく男たちの背中を見送って、左之助は少女に向き直った。
その、鋭い眼光に射抜かれたように、少女は動けない。
「しかし、嬢ちゃんも怖いもの知らずだねぇ。ま、次からは気を付けるこった」
ポンポンと頭を叩く、左之助の手を少女は乱暴に振り払った。
「嬢ちゃん、嬢ちゃんってね、私には片桐菖華っていう、ちゃんとした名前があるの。それに、あなたなんかに助けてもらわなくても、ひとりでどうにか出来たわ」
左之助はしばらくポカンとしていた。
それから我に返る。
「それじゃあ言わせてもらうけどなぁ、俺にも相楽左之助って立派な名前があるんでぇ!俺が居合わせなきゃ、今頃、袋叩きにあってたとこだってーのに、少しも感謝の気持ちってもんがねぇな」
「何よ、恩着せがましく言わないで。私は別に頼んだ覚えないし、あなたが勝手にやったことじゃない!」
「こんな生意気で、可愛げのない嬢ちゃんは初めてだぜ」
「嬢ちゃんって言わないで!」
店の入り口の真ん前で、見えない火花を散らし合っている二人を止める者は、誰ひとりとしていなかった。
かたやツンツン頭の長身の男。
それに立ち向かうのは、桃色のリボンをつけた小柄な少女。
その異なる風貌同士のせいか、道行く人々の注目の的になっているなど、当人たちは知る由もなかった。
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