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「兄様…何で、ここへ?」
「あれほど真鶴の屋敷から出てはいけないと言っただろう?叔父さんに見つかったら、どうするんだ?」
「…あそこには居たくないの。息が詰まりそうで嫌なの」
俯く菖華の顔を覗き込んで、兄はいつになく厳しい口調で言った。
「菖華、僕達は叔父さんにお世話になっているんだぞ。少しくらいのことが我慢出来なくてどうするんだ」
「兄様はなにも分かってないっ!私の気持ちなんて分からない!」
喧嘩を止められたと思ったら、目の前で揉めだした兄妹を、左之助はしばらくの間見ていたが、さっきまで自分が関わっていた相手だけに気になった。
つかさず口を挟む。
「おい、一体何なんだよ。真鶴とか叔父さんとか、訳の分からねぇ話ししやがって」
その声に我に返って振り向いたのは、兄のほうだった。
しかし、左之助の質問には答えず、彼は俯いたままの妹に尋ねた。
「お前…また何かやったのか?どうして人様を困らせるような嘘を平気で吐くんだ?母さんに言われていたこと、忘れたわけじゃないだろ」
「嘘だとぉ?」
左之助は大声を上げた。
自分のした人助けが嘘だったとは。
信じられないもなにも、自分は全く無実の人間をやっつけてしまったのだ。
「謝りなさい、菖華!皆さんにご迷惑を掛けたんだ。真鶴の叔父さんにも関わることなんだぞ」
「嫌よ!私は悪くないもの。絶対、謝らない。あんな人、勝手に困ればいいんだわ」
「菖華!待ちなさい!」
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