嘘つき少女

8/8

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
兄の手を振り払って、菖華は駆け出す。 そして、瞬間的に合った左之助の視線に戸惑い、叫んだ。 「あんたなんか、大っ嫌い!」 左之助は捕まえようと伸ばしかけた手を、ぎゅっと握り締めた。 捕まえることは簡単にできた。 なのに、出来なかった。 立ち去る菖華の瞳に、予想もしていなかった涙に、左之助は胸の奥が苦しくなるのを感じた。 調子が狂う。 さっきまで、あんなに勝ち気な態度を取っていた少女が、こんなにも簡単に涙を見せるなんて思ってもいなかった。 「…あの」 残された青年が左之助に声を掛ける。 「自分は片桐慎太郎といいます。妹の菖華が、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。前までは嘘をつくことなど一度もなかったんですが、最近になってこんなことばかり。妹には十分言い聞かせますから、どうか許してやって下さい」 慎太郎と名乗る青年は、深々と頭を下げた。 そんな慎太郎の姿に、左之助は怒る気にもなれず、大きな溜め息をついた。 「別に気にしちゃいねーよ。それより、嬢ちゃんのほうが心配だ。早く行ってやんな」 「え…?」 「あんたの大事な妹なんだろ」 「はいっ」 慎太郎はもう一度ペコリと頭を下げて、その場を後にした。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加