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キャンプ場につき、テントを張る。
もちろん、彼が入るくらいのサイズのものだ。
その次は川を背景に彼との写真を撮る。
一枚、二枚、三枚、……。
その次は山を背景に……。
「これぐらいで十分かな」
彼のそばに腰掛けて本を読む。
やわらかな日差しが私たちをつつみ、爽やかな風が私の頬を撫でる。
鳥のさえずりがどこかから聴こえてくる。
大自然の中、彼と二人きりのこの空間を満喫する。
「あっれー? 静香じゃん! 何してんのー? って読書かよ!」
突然の声にびっくりして顔を上げる。
「和紗……?」
あたしの言葉に頷いてから和紗はテントの方を見た。
「随分と大きいテントね、何人で来てるの?」
「あ、彼と」
和紗の顔は逆光になっててよく見えない、そのはずなのだけれど、なぜか彼女の顔が歪んだ気がした。
「二人でこのサイズ? 大きすぎない?」
てか、その彼は? と聞く和紗に彼を指し示してあげると、怪訝な顔をされた。
「車……?」
何を言ってるのかな和紗は。
ずっと話して聞かせてあげてたじゃない。
「彼だよ。和紗は誰と来たの?」
「あたしはひとりでだけど……、それよりも、静香、この車が例の彼なの……?」
和紗の質問に笑顔で頷く。
途端に、和紗の雰囲気が変わった。
「あたしはこの車に負けたっていうの……!?」
「え……?」
和紗がすごい形相で彼を睨みつける。
「こんな感情もない無機物なんかに静香をとられるなんて……! あたしの方が先に出会ったのに! あたしの方が絶対に静香のこと幸せに出来るのに! あたしの方が静香のこと好きなのに!」
憎悪をあらわに彼に向かって叫ぶ和紗。
私はただ、呆然と見ているしかできなかった。
「たとえ人様に認められなくても、いつの日か静香はあたしと一緒になってくれるって信じてたのに……!!」
……しばらくして、和紗は私の方を見つめてきた。
「静香、本当にこれのことが好きなの……?」
力なくそう呟く和紗に、あたしは頷いてみせる。
「和紗には悪いけど、私が好きなのは彼だけよ」
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