Ⅱ、路傍の石

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一分ほど歩いただろうか。 街灯の淡い灯りに照らされた前方の十字路に 何かが転がっていた。 一瞬、ごみ袋が放置されているのかと思ったがどうも違う。 余りこういう物には関わり合いになりたくなかったのだが 帰るにはこの道を真っ直ぐ進むしかない。 仕方なく近付いて確認してみると よく知っている物だった。 人間だ。 正確には見知らぬ老女が 道路に俯せに倒れていたのだ。 近くにはコンビニの袋も転がっている。 状況から考えると あのバカ学生の車に跳ねられたというのが 一番可能性が高そうだ。 道路にブレーキ跡が見当たらない事から (僕も急ブレーキ音は聞いてない) おそらくあの愚物は 人を轢いた事に気付いていないのかもしれない。 あんな不規則な蛇行運転をしていたのだ 酒にでも酔っていたのか それとも何か危ない薬でもキメていたのだろう。 どのみち僕には関係ないことだ。 無意識に倒れ伏してピクリとも動かない老女を一瞥する。 人はいつか必ず死ぬ。 この老女の場合、それがたまたま今だったというだけの話だ。 死亡事故の発見者なんかになって 誰かの記憶に残るなど冗談じゃない。 この事は見なかった事にするのが懸命だ。 老女をそのまま放置して家路を急ごうとした時、 視界の端で 老女の右手の指が僅かにアスファルトを掻くような動きをしたように見えた。 ……まさか生きてる!?
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