Ⅱ、路傍の石

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僕は未だ倒れ伏したままの老女を まるで不燃物を見るような感情の籠らない冷たい眼で見ながら その後頭部の髪の毛を掴んだ。 そのまま膝の高さまで頭を持ち上げる。 老女の口が微かに動く。 誰かに助けでも求めているのだろうか? その姿は水槽から出されて窒息寸前の金魚のようにも思える。 僕は息を止めると 掴んだままの頭を 全体重を掛けてアスファルトに叩きつけた。 『グシャッ』という小玉西瓜を押し潰したような感触。 歳を経てウエハースのように脆くなっていた頭蓋骨は 簡単に砕けてしまったようだ。 (……これでよし) 横たわる老女の身体は もうピクリとも動かない。 頭の下から歪な放射状に 黒いシミが拡がってきた。 僕は大きく息を吐き出すと 死体には眼もくれず 再び人影一つ見当たらない帰路を歩き出した。
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