Ⅱ、路傍の石

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何だか右手がベタベタする。 おそらく髪の脂だろう。 ハンカチで拭おうとしたが寸前で思い止まった。 (止めておこう) 拭ったらハンカチも脂で汚れる。 疑われる恐れがないとはいえ わざわざ物証を一つ増やす事もないだろう。 かなり不快だが帰宅するまで右手はこのままでいた方がいい。 とんだハプニングだったが どうやら心拍数も平常に戻ったようだ。 やがて遠方から救急車のサイレンの音が近付いてきた。 ようやく親切な(僕にとっては侮蔑の言葉)誰かさんが通報したのだろう。 直ぐにあのバカ学生は逮捕される。 ひょっとしたら致命傷になった頭の傷が 事故でつけられたものではない事が立証されるかもしれない。 だが何の問題もない。 それも全て大学生がヤった事。 事故から逃れる為にわざわさ犯行現場に戻ってきて トドメを刺したというワケだ。 僕は事故の直前に たまたま現場を通りすぎただけの イチ中学生に過ぎない。 疑われるどころか 誰の記憶にも残ったりはしないだろう。
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