Ⅰ、初めての……

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そして一限目の授業が終了した後の休み時間。 「よぅ!」 クラスのリーダー格(ジャイアン的な意味でだが)であるAが いきなり僕に話しかけてきた。 (勿論、彼にはちゃんとした名前があるのだが 僕にとって他人の名前など アルファベット等の記号と大差ないのでより簡単なAと呼称する) 「おいおい何だよオマエ、 足メッチャ速いじゃん」 瞬間、本当に心臓が止まったかと思った。 (まさか見られていた!?) 「えっ…何のコト?」 幸いほとんどのクラスメイトは 短い休み時間を無意味な会話に費やす事に夢中で 僕らの会話に注意を向けている者はいなさそうだ。 ここは何としても知らばくれるしかない。 「惚けんなよ。 オマエ、朝滅茶苦茶急いで走ってたじゃねぇか? 俺が全然追い付けなかったンだからな」 しまった。 生徒の姿を確認していたのは前方だけで 後方にも注意する事を忘れていた。 そういえばAは いつも始業ギリギリに教室に飛び込んでくるタイプだった。 「え、人違いじゃないの?」 上手く誤魔化せるだろうか……? 「はぁ? 何言ってんだ? おんなじ服着てンじゃねぇかよ 間違いなワケねぇだろ?」 駄目だ……。 これでは誤魔化せそうもない。 それにこれ以上教室内で この話題を続けるワケにもい かない。 「あ…もうすぐ授業始まるから その事は昼休みにでも……」 あからさまに訝しげな表情をしているAに 昼休みに二人きりで話す事を 何とか承諾させて その場を乗りきった。 だが平穏な日常を脅かす災難からは未だ逃れきってはいない。 (どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする……)
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