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『むかし、むかし、人間の王子に恋をした人魚姫は、王子のそばにいくため人間の足をもらおうと、海に棲む魔法使いのお婆さんを訪ねました。
魔法使いのお婆さんは人魚姫の願いを聞き入れ
「おまえに人間の足をやるかわりに、その美しい声をおくれ」
と、足とひきかえに自慢の声をさしだすよう、人魚姫に交換の条件をだしたのです。』
「それで‥!?人魚姫は声をあげて足をもらったの?」
四歳になる娘の真理亜(まりあ)が、小さな顔を広げた絵本にすっぽりと隠し、ふわふわピンクの夏布団を胸のうえに乗せて人魚姫の挿し絵を見ている。
娘を寝かしつけるまえのひととき、わたしが…わたしたち親子が一日のなかで一番ほっとできる大切な時間。
あわただしくこなさなくてはならない仕事も家事もどこか遠くにおいて、やがて、すやすや眠る我が子の姿をいつまでも眺めていられる毎日。
そんな日がずっと続いてゆけばいい、そう永遠に。
それだけが、その頃のわたしたちの願いだったのに。
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