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「そうよ、人魚姫は声のかわりに足をもらったの」
「でも人魚が人間の足で歩くと、歩くたびにナイフで刺されるように痛いんでしょ!?」
何度も読んだ絵本の続きをすでに覚えている真理亜が、人魚姫の痛みを想像してか顔を歪めて聞き返す。
「それはね、人魚姫は王子に会いたい気持ちのほうが大きかったんじゃないかしら」
そう、その時は、わたしも解放されたい気持ちのほうが大きかった。
「でも、王子さまと結婚できなかったら、海の泡になって消えちゃうんでしょ!?こわくなかったのかなぁ?」
「それはね、人魚姫は王子と結婚できないなんてこと、あるはずがないと思ってたんじゃないかな」
そう、その時は、わたしもあるはずがないと思っていた。
自分の身に、何かを取り戻すために‥もともと持っていた、だれもが当たり前にできること、
笑ったり泣いたり怒ったり喜んだり、
ただただ自然な表情を取り戻すためだけに、大切な何かを失うことになるなんて。
よりによって、自分の身には決して起こらない不運であると
そう、その頃は、何の疑いもなく万が一の事故にあうような確率と笑って信じていた。
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