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 私と彼は、すべてがかちんこちんに固まってしまうかのような寒さの中で、ずっと手をつないでいた。私は左手、彼は右手の手袋を外して。もちろんつながっている手は、彼のコートのポケットの中だ。そうでなければ、手首から先がぽろりと落ちてしまう。今日はそのくらい冷えていた。  それでも寒くて、寒さのあまりに二人して手を動かすものだから、お互いの薬指にはめられている指輪が、指を絡めるのを邪魔する。ポケットの中で、かちゃかちゃという音がしているのがすぐにわかる。しかし私たちは、逆にその二対の指輪を、私はピンクゴールド、彼はブラックメタルの、おそろいの指輪を確かめ合うように、余計に指を絡めあった。お互いにそうせずにはいられなかったからだ。 「寒いね」 「ああ、寒いね」  私たちの発した言葉は、きりりと冷える乾いた空気に、白い固まりとなって現れすぐに溶けていく。私たちの顔くらいの小さな雲が、冷たい空気に音もなく吸い込まれていく。私たちはそれだけ言ってしまうと、また黙る。ふと私は、草野心平を思い出す。真冬に草野心平を重い指すのは、不思議な気持ちだった。私にとって、彼は秋の詩人だから。
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