0人が本棚に入れています
本棚に追加
足元にはブーツの七分目くらいまで雪が積もっていて、それなのにまだ大粒の雪が降り続いている。私の毛糸の帽子にも、彼の茶色いパーマの頭にも、富士山みたいに雪がつもっていた。時々彼が手袋をしている方の手でほろってくれたが、それでもすぐに積もってしまう。終いには帽子をかぶっているのかそれとも雪をかぶっているのか、よくわからなくなる。このバス停には、屋根がないのだ。私も彼の頭の上の雪をほろいたいのだが、手を伸ばしても全然届かない。彼はラジオ体操をするみたいにちょこんと、不自然に頭を横に曲げると、その柔らかそうな頭を私の方に向ける。私も手袋をしている方の手で、その雪をほろう。
私は今、この時間、彼と同じことを考えていられるかあまり自信がなかった。もちろん、隣に立っている、背の高い男の子のことは大好きだった。私の心の大部分には彼のためのスペースが空けられていたし、私はそれを、ショートケーキのイチゴのように大事にとっておいた。 でも現に私がしようとしていることは、これからくるであろうバスに乗ることであって、それはつまり彼と過ごす時間を失うと言うことだった。どんな崇高な目的があるとしても、それは変わらない。
「ちょっと待ってて」と唐突に言って、彼は私の手を離すと、道路と逆方向に走り出した。雪の上に新しい足跡が一組、大きな感覚で作られていく。隣にある私のそれと見比べると、二倍ほどもあった。こんなことになるなら、彼も長靴でくればよかったのに。
時計を見ると、到着予定時刻から五分は過ぎている。私は剥き出しの左手に息を吹きかけ、身を一層縮ませる。バスが遅れると、私はなんだかほっとする。
上を見上げると、青空と雲の比率は七対三だった。だから、ひどく明るい。私はどの雲から雪が落ちてくるのか、把握しようとする。しかし、結局大粒の雪が視界をかすめたり目にはいるので、わからずじまいだ。
最初のコメントを投稿しよう!