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 運転手さんと目が合い、私は小さい声でもういかなくちゃ、と言う。彼は腕の力を徐々に緩めていく。まるで砂糖が溶けていくように。  私は何も言えず、振り返ることもできず、バスのステップを登る。運転席に近い左際に座り、やけに軽く感じるかばんをひざの上に載せる。私を見上げている彼の唇が、大きく動く。私は絶対にするまいと思っていたのに、結局涙を流してしまう。  バスはひとつクラクションを鳴らして、ゆっくりと発進する。私は握り締めている缶コーヒーを頬に当て、-外の寒さでだいぶぬるくなってしまっているけど-そのぬくもりを感じる。  雪に埋もれそうになっている彼と、お互いの姿が見えなくなるまで目を合わせつづけていた。そして、心の中で彼と約束をした。私の体の中に移っていく、缶コーヒーの温かさを感じながら。
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