ラブ・トレイン

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  何とか目の前で見ていた光景を忘れようとして、美咲は秀輝のことを考えた。 込み上げた寂しさの乱れに押し流されて、結局どうでもよい男のはずだった秀輝とは付き合うことになるのだろうか。 ここ何年も付き合った男たちとそうだったように、適当に付き合って、適当に遊んで、適当にヤって快楽を弄び、どうしようもないと無力感を感じながら別れていくのだろうか。   切なく体中に広がった深い悲しみが、運命を一瞬で信じた痛みに変わった。 救いようがないと美咲は思った。 たった少し前まで瞼に焼きついていた少年の風貌は、それでも心の中から消し去ることができなかった。気がつくといつのまにか降車駅だった。 一体感を感じない周囲の人波に押し出されて、美咲は開かれた電車の扉から、見慣れた駅の雑踏のホームへと降り立った。  その先に存在するのは行きたくもない学校で、いつもと変わらない日常の風景が広がっている。 無表情で機械的な人々の渦に呑み込まれて歩きながら、どうしてなのか目頭が熱くなっていくのを美咲は感じていた。 人を好きになって泣いているのなら、それは初めてだと思った。
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