24人が本棚に入れています
本棚に追加
/120ページ
――――――
ドライア大陸北方。ノーザンライト山岳地帯と呼ばれる地域。
傭兵達の街、ギルド・タウンはその麓にある。
年中吹き下ろされる山の風は冷たく、夏でも二十五度を越えることが無い。
その上、冬となれば山風は住民に牙を剥き、雪が降れば吹雪というのがザラだ。
一年の約半分が雪に覆われるという過酷な環境ではあるが、住民の皆がここに居続ける。
この地が天然の要塞となっているのがその最もたる理由だ。
傭兵稼業は何かと敵が多くなる。
自分たちの命は、守りやすいに越したことはない。
そんなギルド・タウンの端に、古ぼけた一戸建ての家が在る。
日当たり・風抜け共に最悪。だが、この家に住む主は、自ら進んで、ここに居を構えていた。
「Zzzz……」
まだ午前中だというのにリビングのソファで寝倒す家主。
まぁ、日当たりが悪く薄暗いため、寝るには最適なのだろうが、なんとも締まらない。
--バンバンバン!
唐突に鳴り響く騒音。誰かが扉を思いっきり叩きまくっているようだ。
意識が戻りかけた家主だが、知るかとばかりに居留守を決め込む。
しばらくそうしていると、騒音が止んだ。家主は勝利に満ちた笑顔を浮かべ、再びまどろみに身をゆだね……
――キュイイン……!
不意に響く、魔力の収束音。
そのせいで、家主は心地よい睡魔の誘いを振り切りざるを得なかった。
それと同時、反射的に意識が警告を発する。こいつぁヤバい。と。
家主はその警告に従い、身体を起こそうとしたが……
――ばっごぉおおん!
「どぅわっ!」
刹那後、街を揺るがすかの如き轟音が、その場を支配した。
さすがの家主もこれには驚き、ソファから派手に落下してしまった。
――衝撃系上級魔術『ブラスティング・アルバレスト』。
扉を破壊した魔術の銘である。
基本的に収束した魔力をドでかい矢として放つ、単純かつ破壊的な魔術だ。
が、実力者が行使すれば、威力はそのままで魔術の矢を細くし、ピンポイントで標的を射抜くこともできる。
今のがそのわかりやすい例と言えよう。
あの火力で、吹き飛ばしたのは扉だけ。
なんとも器用な術者である。
最初のコメントを投稿しよう!