プロローグ 

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 ――――――  ドライア大陸北方。ノーザンライト山岳地帯と呼ばれる地域。  傭兵達の街、ギルド・タウンはその麓にある。  年中吹き下ろされる山の風は冷たく、夏でも二十五度を越えることが無い。  その上、冬となれば山風は住民に牙を剥き、雪が降れば吹雪というのがザラだ。  一年の約半分が雪に覆われるという過酷な環境ではあるが、住民の皆がここに居続ける。  この地が天然の要塞となっているのがその最もたる理由だ。  傭兵稼業は何かと敵が多くなる。  自分たちの命は、守りやすいに越したことはない。  そんなギルド・タウンの端に、古ぼけた一戸建ての家が在る。  日当たり・風抜け共に最悪。だが、この家に住む主は、自ら進んで、ここに居を構えていた。 「Zzzz……」  まだ午前中だというのにリビングのソファで寝倒す家主。  まぁ、日当たりが悪く薄暗いため、寝るには最適なのだろうが、なんとも締まらない。  --バンバンバン!  唐突に鳴り響く騒音。誰かが扉を思いっきり叩きまくっているようだ。  意識が戻りかけた家主だが、知るかとばかりに居留守を決め込む。  しばらくそうしていると、騒音が止んだ。家主は勝利に満ちた笑顔を浮かべ、再びまどろみに身をゆだね……  ――キュイイン……!  不意に響く、魔力の収束音。  そのせいで、家主は心地よい睡魔の誘いを振り切りざるを得なかった。  それと同時、反射的に意識が警告を発する。こいつぁヤバい。と。  家主はその警告に従い、身体を起こそうとしたが……  ――ばっごぉおおん! 「どぅわっ!」  刹那後、街を揺るがすかの如き轟音が、その場を支配した。  さすがの家主もこれには驚き、ソファから派手に落下してしまった。  ――衝撃系上級魔術『ブラスティング・アルバレスト』。  扉を破壊した魔術の銘である。  基本的に収束した魔力をドでかい矢として放つ、単純かつ破壊的な魔術だ。  が、実力者が行使すれば、威力はそのままで魔術の矢を細くし、ピンポイントで標的を射抜くこともできる。  今のがそのわかりやすい例と言えよう。  あの火力で、吹き飛ばしたのは扉だけ。  なんとも器用な術者である。
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