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「って、関心してる場合じゃねぇ!」
しばらくの間呆けていた家主は、我に返ってそう叫んだ。
扉を破壊した犯人はすでにわかっている。
多くの使い手がいるこのギルド・タウンでも、この大火力魔術をこの精密さで放てる人間なぞ、一人しかいない。
「くぉらてめー! オレが大金はたいて買った家、傷つけんなって言ったろうが!」
いまだ土埃が収まらない玄関に向かい、家主が怒鳴りつける。
彼の名はランスロット。
群れる事を好まず、協調性にもやや欠けるため、ギルド・タウンの傭兵達からは『はぐれ』と呼ばれている。
――まぁ当の本人はまるで気にしていないが。
「黙りなさい! アタシが直々に来てあげてるのに、居留守を使うアンタが悪いでしょっ!」
対するこちらの女性--扉を破壊した張本人だ。--も、負けじと怒鳴り返す。
小柄で見上げながらというのがなんともかわいらしいが、立派な成人女性だ。
残念なことに、身体付きは年相応とは言えないが。
その名を、スティアと言う。
若くして、この街最古のギルド『ノルト・ステルン』の長となった女性だ。
勝ち気だが、意外と面倒見がよく、実力もある。
しかも、有事とあらば自ら依頼をこなすため、古参の傭兵から新人傭兵まで、幅広い層の人間に認められている。
「知らん! 今日は無駄金が使えねーんだよ! そう言うときは寝て過ごすって決めてんだ!」
ずいっ! と顔を出し、威圧的にスティアを睨みつけるランスロット。
とは言え、銀色の髪はめちゃくちゃで、同色の瞳もイマイチはっきり開かれていないため、迫力は普段の三割減だ。
さて、睨みつけられたスティアの方はというと、まるで動じず、そのダークグリーンの瞳は得意気な光を帯びていた。
いわゆる『ドヤ顔』と言うヤツだ。
「そんなアンタに、アタシがいい仕事を持ってきてやったわよ。感謝なさい」
ふふん、とお高い態度を取り、腰まである藍色のツインテールの片方を払い上げる。
その態度に少々のイラつきを感じたが、仕事の(=金になる)話である。
ランスロットはチッ! とわざとらしく舌打ちすると、スティアをリビングに招いた。
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