《壱話》

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知らなかったから許されるというのは、あまりにも稚拙な思考だと想う。 罪は罪。 その事実から逃れることは出来ないのだ。だからといって遠藤には今から謝りにいく勇気などなかった。 恩人なのだとしても、さっき自身に感じた身の危険は本物だった。怖いのだ彼が。獣のようにぎらついたあの瞳が、牙を彷彿とさせるあの八重歯が。そして、なにより“存在”そのものが怖い。 その上、人付き合いが苦手な性格がプラスして遠藤の行動を妨げる要因にもなっていた。 頭では分かっていても中々、出来る事ではなかった。 意気消沈な遠藤に爺さんは壁に寄り掛かりながら突然語りだした。  「オマエサンが恐怖するのも無理もない。アヤツは人ではないからのう・・・・」 そういった爺さんの表情には悲哀の感情があった。  「アヤツは《狼男》なのだよ。--ただ救いな事は純血ではなかったということか。・・・・人と《狼男》の間に生まれたハーフじゃ」  「いや、幸いというのは失礼な話か。・・・・なんせ《狼男》に犯されて孕んだ子じゃ。アヤツが母というべき人に愛される事なく森に捨てられるのは当然の成り行きか」 そこまで聞いた遠藤は遮る形で、  「爺さん、あんま人の過去をペチャクチャ言うもんじゃないぜ」 と言う。 そして、遠藤は立ち上がり、扉へと向かう。 爺さんは「どこに行くのじゃ」と尋ねる。それに遠藤は「散歩に・・・・」と一言。 玄関で靴を履き、爺さんに背を向けたまま「昼飯うまかった」と言ってから扉を開けて外へと--
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