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木々は枯れ、落ち葉を巻き上げる風は甲高い音をたてて吹きすさぶ。
身体の芯に響く冷たさに、手に握ったカイロを擦り熱を発生させて堪えた。
黒いダウンコートの下には、タンクトップ、Tシャツ、セーターの重ね着にも関わらず空いた隙間を縫って風は入り込む。
ダウンコートのチャックを首まで全部閉める、これで多少はマシになったかと気休めだがそう想うことにした。
視界には、イルミネーションにより彩られた街路樹や店が建ち並び、きらびやかな印象を与える。
更に、人々が集まるこのメインストリートは、熱気で溢れていた。
耳に入る話しはどれもクリスマスについての事。
「彼女」がどうとか。
「彼氏」がどうとか。
だいたい、そんな感じの内容で、それを話す時の声は嬉しそうな事は分かる。
だけど、分かった所で何か意味があるわけでもない。
所詮、他人。
幸せになろうと--不幸になろうと、どうでもいいと、達観したような、または、自分には関係ないと諦めているようなそんな気持ちで、聞こえてきた会話を雑音として右耳から左耳へと聞き流す。
そして、目的地へと一人向かう・・・・。
真っ黒な男は、早足で人垣を縫い、自分にしか消えない声でそっと呟く。
「--あ~あ。人類滅亡しねえかなあ・・・・」
鬱々しくどんよりと鉛のように重い声音は街の活気に埋もれて、誰にも聞かれることなく消えていった。
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