《壱話》

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遠藤の姿に気が付いた銀のヒトガタは、  「無事だったのか」と安堵した表情で近付いてくる。 それに対し遠藤はヒトガタの男性特有の低い声が獣の唸り声のように聞こえ、恐怖で身体が固まる。 硬い表情の遠藤に気が付いたヒトガタは立ち止まり、遠藤の内心を見透かして自虐の笑みを浮かべる。 その後ヒトガタは踵を返してまた扉へと戻る。そして、爺さんは「もう帰るのか」と言う。  「ええ・・・・彼の無事も確認しましたので。お邪魔しました」 そういってヒトガタは出ていった。 爺さんは、溜息をつきながら見送る。 その後、遠藤を見た爺さんは「“狼”の魔力か・・・・また面倒な」とボソリと呟く。 遠藤にその声は届かない。ただ今は危機が去った事に安堵して固まった身体を解して、肩を落とし息を吐く。心中は助かった、と想った。 そんな時。 爺さんが声をかける。  「いくら知らなかったとは言え。あの態度はなかったんじゃねえの・・・・アヤツがオマエサンを助けたんじゃから」 そういう爺さんに対し遠藤は何か言おうとして口を開き、パクパクさせて結局なにも言えず「・・・・そうだったのか」と言うのが精一杯だった。 新たに遠藤の心中には後悔の念が去来する。 --やってしまった。
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