《壱話》

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肺が上手く機能せず呼吸をするのが苦しくなり始め、遠藤はようやく足を止める。 荒い呼吸をしながら痛みが鎮まるのを待つ。 フラフラで立つのもやっとの遠藤はそれでも限界に近い身体に叱咤激励しながら酷使する。 そんな時、鳥の群れが一斉に羽ばたつ音を知覚した遠藤は音の発生源へと足を向けて進む。 歩いて五分弱。 空けた場所に出た遠藤は驚愕の光景を目の当たりにする。 熊と銀のヒトガタが対峙していたのだ。 唸る熊に対し直立不動のヒトガタに遠藤は絶句する。 どういうことだ。何が起こっている。と遠藤の心中にあるのはそれだ。 熊に出会うというのは死んだも同意義だ。勿論それなりの装備をすれば別だが、銀のヒトガタが武装を携帯しているようには見えない。なのに堂々と臆することもない。 遠藤は愕然とする。 ついこの間クマと出会い死にかけたのだ。尚更、遠藤には理解できない光景だった。 そして、銀のヒトガタが動いた。 地面を踏み潰す力強い踏破。舞う土くれ。 目測二十メートルの距離を一気に縮める。対し熊は後ろの二足で身体を支えてズッシリと構える。向かってくる敵に熊は右腕によるアイアンクローを与える。 右斜め上から左斜め下へと結ぶ直線軌道を丸太のように太い腕で凪ぐ。
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