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 そして二人の予感は見事的中することになる。臭いの元は木々の根元にあった。詳しく言えば木の根と土でできた洞穴である。小さな断層の袂にぽっかりと口を開けていたそれに人の手が加わった様子はない。剥き出しの土壁に沿って裂けたその穴は、半分ほどが根で塞がれている。しかし大の男が一人余裕をもって滑り込むことができるほどにはスペースがあった。とはいえ、嘔吐しそうなほどの悪臭が立ち込める空間に自ら進んで入ろうとするものはなかった。 「トシ、何か照らすものは持ってないか?」 「生憎松明の代わりになるものは入ってないようです」  荷物を漁りながらトシは首を振る。タオはそうかと一言返すと穴の半分を占めている根を引きちぎり始めた。 「切りましょうか」 「その方が早いな。頼む」  タオが一歩退きトシに譲る。臭気が濃くなるありがたくない席を渡されたトシは、今朝の頭痛がぶり返さないよう、浅い呼吸を繰り返す。こめかみに汗が伝うのを感じながらトシは重心を落とし、柄に手をかけた。  腐った肉の話のときより血の気が引いているトシに、タオの顔色も悪くなる。ここで倒れられては厄介だ。無理はさせまいとトシの肩に手を伸ばそうとしたその時、トシが動いた。しかしタオが瞬きをした後には元の格好と寸分違わぬ状態でトシは立っていた。左手は腰に、右手は剣の柄に、足は肩幅に開かれ、左足を一歩引いた状態で腰を沈めている。一瞬動いたように見えたのは気のせいだったのだろうか。はてと首を傾げるタオだったが、微かに揺れ動くトシのコートと突如穴に吸い込まれるように落ちて行った根が、気のせいではないことを証明した。 「すっげぇ。一瞬だな」 「切れ味は毎日研いでる僕が保証します」  自慢げに胸を張るトシだが、その表情は浮かない。タオはその視線を辿るため、トシの隣に立った。途端涙が滲むほどの臭気が鼻を襲った。根を切り、穴を広げたことによって臭いはより一層濃くなっている。タオは胃のむかつきを覚えた。口の中にじんわりと酸味を帯びた唾液が広がる。もしここに一人でいたならば堪えきれず嘔吐していただろう。しかしそれでも歯を食いしばって耐えていたのは視界の隅に昨日会ったばかりの顔があったからだった。
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