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「そういえば狼って集団行動する動物でしたね」 「そうだっけ。単独行動派だと思ってたわ」  話している間にもループスとの距離は縮まっていく。緊迫する空気の中誰かの足がじゃりと小石を踏む。その些細な音がきっかけとなった。先に動いたのは二人と対峙する三頭のループスのうちの一頭だ。 灰色の毛をなびかせて四肢が力強く地を蹴る。牙を剥き出し、飛躍する先にはまだ剣を鞘に収めたままのトシの姿があった。鋭い爪と牙をもってループスはトシの首を引き裂かんと吠え声を上げる。しかしその声は不自然にぶつりと途切れた。柔らかな毛に覆われた喉をめがけてトシが勢いよく抜刀したのだ。ループスの体が落ちるより先に白刃と鮮血が宙を舞う。トシは灰色の獣が地に伏すのを視界の隅で確認しながら刃を払い、向かいくる次の敵の気配を探った。 一方タオは、トシの機敏な動きに内心舌を巻いていた。昨夜の酒に弱い優男の姿は見る影もない。少々危機的な状況にある今、彼の剣の腕を疑っていたタオにはより一層心強いものだった。 「タオさん、上から来ます」  既に二頭目を切り捨てたらしいトシが静かに言った。タオは上空を見上げ、断層の上に立つ敵を見据える。それと同時に灰色の狼は跳躍した。ほんの一瞬、陽光に煌めいた毛皮に目を細める。しかし視界を埋め尽くしていく灰色に、タオは素早く右手を突き上げた。強く握りこんだ拳がループスの腹に突き立てられる。子犬のように鳴く獣にタオは頓着せず、続いて繰り出した右足でループスを遠くへ蹴り捨てた。 「お見事です、タオさん」  賞賛の言葉にタオは片眉を上げて応じた。振り返り様背後から襲いかかってきたループスに強烈な回し蹴りをお見舞いする。 「お前も一時はどうなるかと思ったがやるじゃねぇか」 「うわ、思い出させないで下さいよ。忘れてたのに」  剣の血を払いながらトシは眉間の皺に指を当てた。歯を食いしばり低く呻く様子にタオは声を上げて笑う。しかしその笑い声に、残ったループスの吠え声が重なった。
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