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「ふうんトシ。いい名前じゃない」 「あ、ありがとうございます」 「ところで、トシには彼女いるの?」  多少個人的すぎる質問に答えるべきか悩んだがそこは素直に答えておくことにした。 「いえ、今は…」 「こんなかわいいのに?」 「え、いや、そんなことは…」 「じゃ、彼女がいたことは?」 「過去に2人ほど」 「ふうん。じゃ、そういう経験は?」  だんだんとあからさまになってくる質問に答えづらくなってきたトシは一旦ビールでも飲んで落ち着こうと店主の質問には触れず、ジョッキに手を伸ばした。が、その手が掴んだのはビールの入ったジョッキではなく、ただの空気だった。 飲もうと思ったビールが消えている。不思議に思い、トシは首を傾げた。すぐ横を見れば見覚えのあるジョッキが知らない男の手に収まっている。あ、と声を上げる暇もない。半分以上残っていたはずのビールは二口で男の胃の中へと消えていった。威勢よくカウンターの上に戻されたジョッキと男を暫し見比べる。不審な行動を繰り返すトシと、男の友人らしき人物と目が合った。 「お前、それ人のじゃないか?」 「ん? あ? え? ……あぁ!」  男は友人の指を見つめ、次に自分の目の前にあるジョッキを見つめ、最後にトシを見つめた。 「ああ!! わりぃわりぃ! これお前のだったのか。道理でうっすいわけだよな。詫びに俺がいっぱいおごってやるからさ」  おやじ、いつもの!と腰を浮かせて男はカウンターに乗り出した。店主がむっと眉間に皺を寄せて男に応じる。 「ちょっと、おやじはやめてっていっつも言ってるでしょ?今までつけてた分、全部今日中に払ってもらうわよ、タオ!」 「あーそれはダメ。勘弁して。ゲンちゃん」 「ゲンちゃんもダメ」  タオと名前について言い合いながらも店主はタオの前に琥珀色の液体の入ったグラスを置いた。 「ほら、これで許してくれ」  目の前に移動してきたグラスを受け取る。 「ありがと」  お詫びにと渡されたグラスの中身を一口あおるとのどに焼け付くような痛みが襲い、続いて勝手に涙がボロボロと溢れてきた。ごほごほと激しくむせるトシの前に今度は水の入ったグラスが置かれた。慌ててその水を飲みほした。 「あ、ありがとうございます」  未だに涙を溢れさせながらトシが店主に告げる。
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