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昨日の夜訪れた酒場は昼には昼の顔があるとでもいうように、クエストの紹介所となっていた。屈強な男たちに混ざって装備を整えた女性の姿もちらほら見られる。トシはクエストに関する対応をすべてタオに任せ、自分は近くの空いた席に座り机に伏していた。
「どれが残ってんだ?」
カウンターに置かれたバインダーに閉じられた紙を捲りながらタオが訊ねる。
「下の方にいくつかハンコが押してあるでしょ、そこで判断してちょうだい。タオの格闘技術ならLv.10くらいまでは余裕と思うわ。トシの技術はよくわからないけど…あの調子じゃ今日の戦いはしんどそうね」
ちらりとトシの方を見てトキワが告げる。
「そのクエストなんてどうかしら? イノシシ退治の」
「Lv.5って簡単すぎんだろ。もう少し難しいのはないのかよ?」
「だってLv.5~10の範囲でのクエストはそれしか残ってないわよ?」
タオの手からバインダーをとり、クエストの記された紙を確認していく。
「それ以外だとLv.15~20、25~30しか残ってないわ」
「15~のはどんなクエストなんだ?」
「えーっと? ショウギョにいる人食い狼、ループス退治ね。本来は峰の方にいるはずの狼なんだけど最近は降りてきて狩りをしている姿が確認されているようね。えーっと、あぁ、すでに冒険者が何人か食い殺されているのね。だからこのクエストが依頼されたのね」
トキワが紙に書かれた内容を端的に言う。ショウギョとはこのオクトンを囲む山の一つで露出した岩肌の多い山である。ショウギョの中腹から麓はまだ緑が残っているため、スライムや大型キノコのクサビラといった初級者向けのモンスターがいるが、峰に向かって進むほど強力なモンスターや大型の肉食獣などが生息していることが知られている。
「よし、このクエストにする!」
「はぁ? タオ本気で言っているの? あんたにはちょっと早いわ」
「大丈夫だ。今なら何でもできる気がする」
「気がするだけよ。トシもあの状態だし、狼退治はやめてイノシシ退治にしなさい」
「俺が大丈夫って言ってんだ。それに俺のレベルが通用するか確認するだけだ。無理そうだったらすぐ戻ってくるから」
「そんな単純なものじゃないのよ。わかっているの?」
「おう。わかってるよ」
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