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声がする。
怒鳴りあう男女の声だ。
(あぁ、これは夢ね…)
半開きの扉の向こうには、随分と懐かしいリビングが見える。
十数年前、確かにこんな家に住んでいた。
しかし、そうなると、今言い争っている人物は誰だろうか。
そんな疑問を抱いた直後、先程までうるさかった声がピタリ、と止んだ。
しんと静まり返る空間で、視界の端に、二つの影を捉える。
………………………その影は、徐々に巨大化していた。
リビングが影にのまれ、一気に暗闇が訪れる。
………ズ……ズズッ
わずかに、何かを引きずるような音が耳に届いた。
ズ…ズッ……ズズ……
(い…や……来ない…でっ)
何か分からないものが近づくことに、言い知れぬ恐怖を覚える。
ズッ…ズッズッズズッ
音の感覚が短くなり、頭の中に警鐘が鳴り響いた。
直感的に、それを見てはいけないと思い、意識は目を閉じようとするのだが、夢の中の自分は、目を見開いたまま硬直している。
ズズ…ズッ……………………
ふいに、音が止んだ。
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