花筏～はないかだ

第一章

大岡越前の母親が『灰になるまで』と言ったとか言わなかったとか、揶揄や冷やかしだけのはずだった高齢者の性愛のそのナマの具体例が、自分の住んでいる家の中にあったのだと、やっと気づいた。若年者の性のようにただ突っ込めばいい、股を開けばいいというだけではない、加齢に伴う筋肉の衰えや関節の痛みなどによって、股を開く事はおろか服の着脱も儘ならなくても、結合したり射精することを目的としなくても、ふれあうだけ、肌を寄せ合うだけでも、若年者の無軌道で無節操な性よりもはるかに深く複雑に人生を重ね合い、命の燠火をかきたてあう、高齢者の性愛。