プロローグ

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「昔々、この町の勇者が世界を救った事はお2人もご存知だと思いますわぁ。 しかし、一言で勇者と言っても1人ではありませんわねぇ。」 ワートルは目を丸くする。 勇者が1人では無い等初めて聞いたのだ。 それに気付いたのかナルメスはこう付け加える。 「屈強なる者、純情なる者、好意の者。それがかつて世界を救った勇者ですわぁ。」 スッケがうんうんと頷く。 「その内の1人、屈強なる者が使用したのがこの剣ですのぉ。」 なるほど…とルルシアが呟く。 それならば宝玉祭でこの剣が必要だという事も納得出来る。 「邪を討つ時は、刀身に竜が持つ宝玉が埋め込まれていたのですわぁ。 それによって竜の加護を強め、邪気から剣を守っていたんですのぉ。」 ワートルとルルシアの目が剣に向けられる。 折れてしまったとはいえ、何となく本来の形は止めている。 確かに剣の刀身には丸い穴が空いている。 2人は頷く。 「しかし、勇者は宝玉を竜に返してしまったんですのぉ…。 そのせいで剣は力には耐えられても、強い邪気には耐えられなくなってしまったのですわぁ。」 ルルシアの心臓が大きく脈打つ。 口角を引きつらせ、上擦った声で尋ねる。 「待って、さっきから強い邪気って言ってるわね?どう言う事? 弱い邪気の長い影響じゃこれは壊れない訳?」 部屋に沈黙が流れる。 時計の秒針だけが絶えず音を立てる。 不意にスッケが咳払いをする。 ナルメスに向き直り、優しく声をかける。 「お嬢さん、何か知っているんじゃろう?話してくれんか? 今、世界で何が起こっているノか。そしてお嬢さんは何者なノか。」 3人の視線を受け、ナルメスは俯く。 目を閉じ、今自分がどうするべきか、答えを探る。 少々の間を置いて彼女は顔を上げる。 「分かりました、お話ししますわぁ。 ですから、どうかお力添えをぉ…!」 スッケは微笑む。 拒む理由は何処にも無い。 そう言いたげに。 ワートルも、ルルシアも、力強く頷く。 ナルメスは1筋の涙を流し、頷く。
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