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ワートルの顔も、ルルシアの顔も、一瞬で青ざめる。
今の時代、竜は人間を食らう凶暴な生き物だと言われている。
突然ワートルが乱暴にテーブルを叩き怒鳴り散らす。
「ふざけんなよ!俺に竜の餌になりに行けって言うのかよ!?
そもそも竜なんてこの世に存在しない、架空の生き物だろ!」
おそらくそうでもしなければ恐怖で押し潰されてしまいそうだったのだろう。
あるいは何が何なのかすっかり訳が分からなくなっていたのかも知れない。
そんな彼を見てスッケは少し苛めすぎたかと反省する。
宥めようと諭し始める。
「ワートル、竜が凶暴だと誰が決めたノかノ?おかしいと思わんか?
竜が凶暴だったなら、今頃こノ世界もこノ剣も存在しないはずじゃ。」
それを聞いていたルルシアがワートルを座らせる。
それまで黙っていたナルメスがそういえば、と呟く。
スカートの中に身に付けていたらしい鞄から厚めの本を取り出し、テーブルに置く。
「竜が存在するかは分かりませんが、竜の末裔とされる一族がいるらしいですわぁ。」
かなり古いらしいその本の表紙には、《竜の宝玉物語》というタイトルと宝玉の剣を持つ男の絵が書かれている。
スッケが感嘆の声を漏らす。
落ち着きを取り戻したワートルが本を開き、首を傾げる。
どうやらそれは手記らしく、走り書きのように内容が書かれているため字が読めない。
だが、確かに竜と人間が混ざったような生き物が所々に描かれている。
「竜の宝玉物語。勇者が書き残した手記じゃノ。まだ残っておったか…。」
本を閉じ、剣を見つめるワートルをルルシアが心配そうに見る。
ワートルはゆっくり口を開く。
「スッケのジッちゃん…?
さっき、怒鳴ってごめん。
ちょっと2人で話したいんだけど…。」
スッケは頷き、ルルシアに声をかける。
「ルルシア。わしノ馬鹿息子に剣ノレプリカを教会へ持って行くよう伝えておくれ。
それから、せっかくじゃ、お嬢さんにこノ町を案内してあげると良い。」
ルルシアは拒否する気にもならなかったのか、ナルメスの手を引いて部屋を出ていく。
2人きりになった後、ワートルは折れた宝玉の剣を手に取った。
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