プロローグ

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スッケは黙ってワートルの言葉を待つ。 「剣なんて、人を傷つけるだけだろ。」 そう呟いた彼の瞳には深い悲しみの色が見て取れる。 そんな彼にスッケは尋ねる。 「では何故、お前さんは剣を作るノかノ。 夜遅くに誰もいないような所で剣ノ稽古をしてるノかノ。」 気持ちと行動の矛盾。 それを指摘され、言葉を詰まらせる。 目を伏せ、剣の折れた面に触れる。 「…母さんが望んでたから。 父さんの後継いで立派な鍛冶屋になれって、自分で大事な人を守れるように強くなれって。」 スッケはクシャッとした笑顔を見せる。 「それで良い。人を傷付ける為で無く、人を守る為に剣振るうノじゃ。 正しい使い方をすれば、剣はお前さんに味方する。お前さんならよぉく分かっておるノ。」 頷いたワートルを見て、スッケは更に顔の皺を増やす。 剣を布で包み、ワートルは迷いを振り切る。 「スッケのジッちゃん。俺……。」 今は亡き母の望みを叶える為。 今、自分に出来る事をする為。 ワートルは剣を抱きしめ、真っ直ぐな瞳でスッケを見つめる。 「竜を探す。 この剣を直して、今どこかにいるはずの勇者に届ける。」 教会の鐘が12時を示して鳴り始めた。 一方のルルシア。 ナルメスに教会や商店街を案内している。 町を見ながら子供のようにはしゃぐナルメスを見てため息をつく。 持ち前の明るさも今は全く感じられない。 ナルメスの暗い話を聞いた後なのだから当然である。 そしてもう1つ、彼女の心に引っかかる事があった。 「ねぇ、ナルメス。」 ルルシアの呼びかけにナルメスは振り返る。 1度首を傾げ、相手の横に並ぶように移動する。 「森でもしかして、って。 ワートルに何を言おうとしたの?」 ナルメスはすっかり忘れていたのかそれを思い返し、しばらくしてあぁ、と手を叩き合わせる。 「あれは勘違いだったみたいですのぉ。ワートル様から何か神聖な力を感じたので、てっきり勇者の子孫なのかとぉ…。 ですけど手当てして頂いた時に勇者の子孫はスッケ様だと聞きましたわぁ。」 スッケ様の御子息から力は感じませんでしたけどぉ…等と呟く彼女を他所に、ルルシアは教会の鐘を見上げた。
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