プロローグ

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日が沈み、夜になっても賑わいの衰えない町の上を月と星が駆けて行く。 ワートルの眠れぬ夜はいつまで経っても明けない。 翌日からの事を考えると嫌でも目が覚めてしまう。 それはルルシアも同じである。 ワートルの事が頭から離れず、自分の事でないのに不安に駆られる。 彼にもしもの事があったら、どうすれば良いのだろう。 自分はどうなってしまうのだろう。 そう思えば思うほどに、とある思いが同時に強くなる。 長いような短いような。 そんな夜が更け、そして明けていった。 辺りは明るみに照らされているが、まだ日は上がりきっていない。 まだ朝早いが、ワートルはスッケのもとを訪れていた。 鞄には愛用の鍛冶道具やスッケに貰った必要最低限の金等を入れ、腰には昨日手にしていた剣を下げている。 「宝玉ノ剣はライディアスノ方ノ荷物に隠してあるからノ。」 スッケがライディアスを指差して言う。 ライディアスとは鹿や馬に似た生き物で、胸に発光体や尾に無線を持っている。 故に旅の乗り物として馬よりも重宝されている。 因みにこのライディアスは先程ワートルがソキウスと名付けた。 「それと、調べた結果だがノ、まずは北を目指すノが良いじゃろう。」 北?とワートルは聞き返す。 「北にあるアルターリアー火山にノ、竜人族という一族がいるらしい。 王都は危険じゃから寄らないようにして、ノートゥノ町から船に乗ると良かろう。」 そう説明し、例の手記を手渡す。 ワートルは頷いてそれを受け取る。 何かの役に立つかとナルメスに許可はもらっていた。 「じゃあ、スッケのジッちゃん。元気でな。何かあったら連絡するから。」 ニカッと笑い、ソキウスに乗るために後ろを向く。 その表情が一瞬にして焦りと驚きで強張る。 自分を見上げる瞳は悲嘆の色に染まり、口はヘの時に曲げられている。 何も伝えていない筈なのに、彼女はそこにいる。 事情を求め、スッケを見る。 「おぉ、すまんノ。ワートル。どうしてもと言うもんじゃからつい口を滑らせた。」 悪気無く笑うスッケを他所に、彼は再び後ろを向く。 「…ルルシア。」 漸く声をかけて貰えた彼女は、胸いっぱいの言葉を吐き出す。 「馬鹿ワートル!どうせ何も言わないで行くつもりだったんでしょ。 酷いじゃない。こっちはスッケおじいちゃんに話聞いてからずっと心配で心配で…!」 彼女はとうとう泣き出す。
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