プロローグ

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ケントルムで教会の次に大きな建物。 それがこの町役場である。 町役場の入口は十数段の階段で高くなっており、その下の人混みの影響はほとんど受けていない。 そこにただ1人、白い髭を生やした高齢の男が立っている。 彼はスッケ、ケントルムの町長である。 「スケベのジッちゃーん。」 「んノッ!?」 ワートルの声が響く。 スッケはその見た目からは想像出来ない、機敏な動きで声がしたほうを振り向く。 「これ、ワートル! わしゃスケベじゃノーてスッケじゃと…。」 物凄い剣幕で怒鳴るが、階段を上ってきたワートルを見てその勢いが消える。 一方ワートルはそれを全く気にせずルルシアを下ろし、「重くなったな。」等と彼女をからかっている。 スッケがニヤリと笑う。 持っている杖でワートルの顔を引き寄せ、小さな声で囁く。 「何じゃ、ワートル。お前さんも隅に置けんノ。 いつの間にルルシアとそういう関係になったノじゃ?ん?ん?」 ワートルの冷ややかな目がスッケを見る。 「どーゆー関係だよ。 だからスケベなんだって、ジッちゃんは。」 「んノッ!?」 内容が分からぬやり取りを見てルルシアは首を傾げる。 ただ少なくともそれが例の用事の事では無いと理解し、口を尖らせる。 「ねぇ、スッケ爺。ワートルに用事があったんじゃないの? あたしも聞いちゃ駄目?」 ルルシアの質問でスッケはワートルを呼び出した本来の目的を思い出したような、そんな素振りを見せる。 ワートルの肩を叩き、先程とは違うゆっくりした動きで町役場の扉を開く。 ルルシアがワートルの顔を見る。 同時に彼も彼女を見た。 何も言わないがスッケの言いたい事はお互いに理解出来る。 《ルルシアと一緒に聞くかは、ワートルが決める事。》 わずかな間を置いてワートルはルルシアの手を引き、スッケと共に町役場へ入って行く。
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