プロローグ

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スッケに通された応接間。 ワートルもルルシアも何度か足を運んだ事はある。 故にいつもと違う所は見てすぐに分かる。 入って右側の壁にケントルム周辺の大きな地図が貼ってある。 普段はこんな所に地図を貼ったりはしていない。 寧ろ隠すのが惜しい程美しい絵を飾ってあるくらいである。 この異常な部屋とまだ話されていない用事と言う物は、2人の好奇心を膨らませるのには十分な材料になる。 「実はノ…。」 スッケが口を開く。 それだけでワートルとルルシアの目はスッケに向けられ、輝きを増す。 「宝玉祭ノ開催式で教会に飾られる剣があるじゃろ? あれはとてつもなく大事な物でノ。」 確かに宝玉祭の開催式では毎年同じ剣がスッケの手により教会の祭壇に飾られる。 宝玉祭に剣とは何の関わりも無いような、と若者は疑問を持つ。 2人もあれが大事な物だとは初めて耳にする。 「かつて勇者が使った剣なノじゃ。 竜ノ炎を使い作られ、竜ノ爪ノ力が宿されておる。 そんな大事な物じゃからノ…普段は南西ノ森に隠してあるノじゃ。」 スッケが杖の先で地図を叩く。 確かに町の南西に広がる森には赤いバツ印が印されている。 漸くスッケの用事の大まかな内容が見えてくる。 「本来ならわしノ一族以外には内緒なんじゃが…流石にわしはもうあノ森ノ中は歩けんしノ。 息子は先日役場ノ階段を転げ落ちて大怪我しおった。」 ルルシアが手を叩き合わせる。 これ以上無いくらいに目を輝かせ、無邪気に笑う。 「あたし達でその剣を取って来れば良いのね!?」 自らも好奇心で目を輝かしていたワートルが、呆れた顔でルルシアからスッケへと視線を移す。 スッケは呑気に笑いながら頷いている。 しかしワートルにはどうしても疑問に思う点が1つある。 「なぁ、何でそれを俺らに頼むんだ?」 スッケの手がワートルの腰を叩く。 腰の曲がったスッケはワートルの肩までは手が届かない。 穏やかな声でこう答える。 「お前さん達が一番信頼出来るからじゃよ。」 ワートルは僅かに間を置き、少し照れ臭そうに笑う。
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