プロローグ

6/16
前へ
/16ページ
次へ
南西の森は町と海で隔離されているにも関わらず、多くのモンスターが住み着いている。 彼らは町へ来て人を襲うことは無い。 しかし人間が森へ足を踏み入れれば容赦無く襲い掛かってくる。 それは宝玉祭であろうと関係無い。 「冗談じゃないわよ。 何であたし達が…!」 森の入り口でルルシアが文句を口にする。 木の上からはモンスター達が「一歩でも森へ足を踏み入れてみろ。」と言わんばかりに目をぎらつかせている。 「あれだけノリノリだった奴がよく言うよ。 怖いんならここで待ってろ。」 1歩足を踏み出したワートルの腕をルルシアが引っ張る。 その顔は恐怖と怒りと、色々な感情が入り交じったような複雑な心情を表している。 ワートルはため息をつき、眉をひそめる。 「馬鹿言わないで! まさか鍛冶屋の息子のあんたが剣扱えないなんて思わないじゃないの!」 そう、ワートルには剣術の心得がほとんど無い。 武器は作る専門、と言った所である。 ルルシアは先程それを知ったばかり。 だからこうして森に入るのを躊躇い始めたのだ。 「仕方ないだろ。 スッケのジッちゃんの頼みだし、あの剣が無いと祭りが始まんないんだし。 ほら、さっさと行ってくるから。」 ルルシアの頭をクシャクシャと撫でて宥める。 それでもルルシアは腕を離さない。 それを見てワートルは漸く彼女の気持ちを悟る。 モンスターに襲われるのも嫌だが、1人でいるのも嫌だという子供の様な気持ちを。 何も言わず、ただ彼女を抱き上げる。 「ちょっ…何でまたお姫様抱っこなのよ!」 ワートルの悪戯っぽい笑みを見て彼の肩を何度か叩く。 しかしワートルが森へ入ったのに気づくと、突然無言でしがみつく。 モンスター達は襲ってこない。 2人を見てはいるものの、一切向かって来ない。 それどころかワートルが歩き出すと、その先にいるモンスター達は一目散に逃げ出す。 「嘘…。」 ワートルに下ろして貰ったルルシアが小声でそう言う。 「あたし達、森に受け入れられたの?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加