プロローグ

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時刻は11時。 宝玉祭開催式の1時間前。 ワートルとルルシアは剣を手に入れ、更にナルメスを連れてスッケの元に戻った。 今は2人揃ってスッケの前に首を下げて立っている。 ナルメスはと言うと、怪我の手当ての為に1度町役場の別の部屋へ通された。 スッケの手には2つに折れた剣。 紛れもなく宝玉祭で使用される剣で、2人が森から持ち帰った物。 「ふむ…。」 スッケが折れた剣をテーブルに敷かれた布の上に置く。 怒る訳でも無く、嘆く訳でも無く、ただひたすら困った様子を見せている。 「あのさ、スッケのジッちゃん…?」 何かを言わなくてはと口を開いてはみるものの、何を言えば良いのか2人は分からない。 スッケは優しく2人の腰を叩き、穏やかに「座りなさい。」と言う。 「分かっておるよ。お前さん達が悪い訳でも、あノ子が悪い訳でも無い。 こノ剣は人間ノ手で折ることは出来んからノ。」 ルルシアは少しホッとした表情を浮かべる。 しかし、ワートルはそれでも浮かない顔のまま。 宝玉祭は伝統のある祭。 その祭に使われる大事な剣が折れていた。 彼の胸は不安で一杯なのだ。 「じゃあモンスターに折られたのか? これ折れたら、どうなるんだよ?」 スッケは腕を組み、真剣な顔をする。 彼が口を開こうとしたのと同時に、別の声が口を挟む。 「おそらくは強い邪気によって折れてしまったのですわぁ。」 3人の目が応接間の扉へ向けられる。 すっかり傷の癒えたらしい、ナルメスが立っている。 スッケに向かって深く上品に頭を下げる。 ルルシアは彼女を見て威嚇する獣の様に唸っている。 スッケはそれを見て笑うと、ナルメスを空いていた席に座らせる。 「どうやらお嬢さんはこノ剣ノ事をよく知っているようじゃノ。」 ナルメスは剣を見つめ、首を横に振る。 その目は憂いを秘めている。 これから何が起こるか知っているかの様に。 「わたくしが知っているのは…ほんの1部ですわぁ。」 ルルシアの顔が穏やかになる。 ワートルは真っ直ぐにナルメスを見つめる。 「なぁ、教えてくんねぇか?この剣の事。」 ナルメスの視線がスッケへと向けられる。 スッケはルルシアとワートルの顔を眺め、ナルメスに向かって頷く。 語り部を思わせる穏やかな語り口で彼女は話し始める。 「この剣は《宝玉の剣》と言いますのぉ。」
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