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「ホントに…ごめん」
彼女はまた呟く。
俺にはその言葉を聞いている余裕がなかった。目の前の光景が信じられない。
呆然と立ち尽くす俺の前で哀しそうに顔を歪めた彼女は、俺の目から視線をずらしてその瞳を一瞬蒼く光らせた。
間を開けずに彼女の体から聞こえるモーター音。背中からわずかに飛び出した歯車が回る音。
そして動きに合わせてギシッと軋んだ背中の金属と。
兵士の短い断末魔。
反射的に振り返って、その光景に耐えきれずに嘔吐した。
俺を守ってくれた蒼い羽はそのままに、もう一つのアームの先についた羽が、シャッと突き刺さっていた兵士を振り落とした。
膝が笑う。手が震える。
あの金属製のアームは彼女背中から出ていて、あの蒼い羽はアームの先についていて。
ポタポタと流れる赤い滴は蒼い羽の先から落ちていて。
じゃあ、今のは彼女が? 彼女が……人を殺した!?
ガタガタと震えて言うことを聞かない体。
そんな俺の体を、彼女の柔らかくて温かい腕が包み込んだ。
たまらず膝をつくと彼女も一緒に座り込む。
背中に柔らかい胸の感触。首をくすぐる彼女の髪も柔らかい。
声は耳元で聞こえた。
「これが何か、知ってる?」
俺は応えることが出来ない。
「なんてね。普通の人が知ってるわけないよね。はぁ、わたし何聞いてんだろ……」
リンと鳴る鈴のような彼女の声は、俺の体のように、しかしそれよりも大きく震えていた。
「これね、死神の翼なんだ。国が進めてきたプロジェクトなんだけど……。いわゆる極秘プロジェクトってやつ。で、わたしがそのプロジェクトの集大成、核なの。わたしさ、死神なんだ。機械仕掛けの、だけどね」
はぁ、と大きく息を漏らした彼女は、そのか細い腕からは到底想像もつかない力で俺を押し離す。
たまらず俺は前に転げた。打ち付けた額が痛い。
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