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痛がるのもそこそこに立ち上がった俺は、いくらか落ち着いた事もあり改めて彼女を視た。
蒼いショートカット。機械仕掛けの雪白のアームの先についた蒼い羽。華奢な体と、可愛らしい顔つき。
純白のワンピースも手伝って、死神どころかどこからどう見ても天使だ。
彼女は力ない笑みを浮かべるとカシャンと翼をたたんだ。
「わたしね、人殺しの道具なの。今までに何人も殺したし、血を浴びた。悲鳴も聞いた。命乞いを無視したことだってある。――わたしは汚れてるの」
そしてもう一度言う。「ごめんね」と。
死神と銘打たれた天使は、死神になりきれず、されど天使に戻ることは己が赦さない。
そのジレンマの中でもがくのはさぞ苦しいだろう。だから俺という存在にすがることで、その苦しみから逃れようとしたのかもしれない。
たくっ……。
クールダウンを終えた俺の思考は今までにないほど澄んでいた。
目の前に居るのは目に涙を湛えた薄幸の天使、もとい俺の最愛の彼女。それ以外の何モノでもない。
だったら俺のすべきことはただ一つ。
俺はゆっくりと彼女近づくと、その体を正面から抱き締めた。
今はもう震えは無い。
ビクリと強張る彼女の体。俺は腕の力を強めた。
「お前は死神なんかじゃない。人を殺したのかもしれないけど、本物の命は無いのかもしれないけど、それでもお前は俺の彼女。そうだろう?」
ゆっくりと。
体に巻き付いた罪と言う名の鎖を断ち切って、天使が再び空を飛べるように。
「でも……わたしは……」
「でもじゃない」
俺は被せるように、彼女の言葉を遮った。彼女が何か言いたそうに口を開いて、しかしどうしたものか分からず、すぐに閉じる。
何度かそれを繰り返して。やっと小さな声を絞り出した。
「……。わたし、飛べるかな? 死神なんかじゃなくて、天使みたいに。飛べる?」
「ああ。もちろん飛べるさ。なんたって俺の彼女なんだから」
彼女は手の甲で涙を拭き取ると涙混じりの声で「うん。わたし天使のように飛びたいよ」と呟いた。
その時、背中の方から聞こえた発砲音と間近で聞こえたギンッという金属音。
たらりと額を流れる冷や汗は俺の緊張と恐怖を如実に表していた。
格好もへったくれもない。また体が震えだして、膝をついた。
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