恋に恋して

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    「志野高に行ってください。 そしてテニスを続けてください」 「無理、してない?」 速瀬先輩が心配気に私を見る。 だから言ったでしょ。 私は大丈夫って。 「もう無理するのはやめました。 速瀬先輩の前では、等身大の私でいます」 背伸びもしない。 似合わない口紅ももうしない。 速瀬先輩に『もうついて来るな』って言われるまで、スニーカー履いて追い掛けます。 「それで嫌われたとしても、 それが本当の私ですから」 涼のお陰で私、ちょっとだけ強くなったでしょ? 速瀬先輩の事、目を逸らさずに真っ直ぐ見つめる事が出来る。 「昨日、口紅つけてたよね? 可愛いかったよ」 そう照れ臭そうに言う速瀬先輩も なんだか可愛いい。 でも、 「似合ってませんでしたよね?」 速瀬先輩はちょっと間をあけ一言、 「嬉しかった」 「えっ?」 「オシャレ、してくれたんでしょ? 俺のために。 そんな名倉を、 嫌いになんかならないよ」 速瀬先輩のためのオシャレ? 好きな人のためにするオシャレなら、 背伸びなんかじゃないのかな? 放課後の部活でのランニング。 速瀬先輩の後について風をきる。 その距離に差が広がる。 でも、もうその背中を見失う事はない。 サッカー部の活動するグランドに 涼の姿を見つけた。 私は速度を緩め、両腕を大きく振り上げ両手を振る。 「涼ーっ!」 涼は振り向き、両腕を振り返してくる。 「花乃ちゃ……イテッ…」 そこで先輩からのげんこつ。 私は、アハハと笑いながら他人のフリ。 涼は『ひどいよぉー』なんてそぶりを見せながら、でも笑っている。 大好きだよ、涼。 ありがとう。 心の中でそう叫びながら 再び大きく手を振った。
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