恋に恋して

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『速瀬先輩って、花乃の事好きらしいよ』 中一の冬、そんな噂が囁かれた。 二年生の速瀬先輩は、三年生の引退した夏から、私も所属するテニス部の部長。 白のテニスウェアが良く似合い、 試合中に見せる鋭い目つきは、 普段の穏やかな性格を一変させる程の気迫を感じさせ、誰もがその勇姿に引き込まれた。 以前から憧れを抱いていた私は、その噂によりいっそう想いが強くなり、 速瀬先輩を意識せずにはいられなくなっていた。 そして迎えたバレンタイン、 シックなブラウンの包装紙で包み、ラメの入ったシルバーのリボンを結んだチョコレートを差し出した。 「受け取って頂けますか?」……私の想い。 噂は噂。 悩んだあげく『重い』と思われない様に、手作りはさけた。 「ありがとう」 速瀬先輩は特別戸惑う様子も見せずに笑顔で受け取ってくれた。 って、それだけ? 『嬉しいよ。ずっと好きだったんだ』 根拠の無いただの噂を真に受けて、 何処かでそんな展開を期待していたのかも。 やっぱり噂はただの噂? きっと貰いなれてるんだろうなぁ? モテない訳、ないですよね? 手作りにしなくて良かった。 気まずくなったらこれからの部活がやりにくいから。 それからも変わらず…ってか、むしろ何事も無かった様に速瀬先輩との時は過ぎた。 気まずくならなかったのは良かったけど、それはそれで淋しい。 しかし一ヶ月後のホワイトデー、 「はいっ」 「えっ!?」 速瀬先輩から渡されたのは、黄色のリボンが結ばれた青系の水玉模様が可愛い透明な包みだった。 水玉模様の隙間からアディダスのリストバンドが見えた。 躊躇する私に、 「俺好きなんだよね」 さらりと言う速瀬先輩。 エエッ!!!! 「俺そのメーカー好きなんだ。 確か名倉もアディダスのタオルとか使ってたよね?」 メ、メーカー!? 好きってそっち? この状況でかなり紛らわしいんですけど。 これって、ただのお返し? ただのお礼? ただの社交辞令? …それとも… 「じゃあこれからも一緒に頑張ろうね。」 笑顔と共に立ち去っちゃった。 爽やか過ぎる。 でも、『一緒に』って? うぅ~、速瀬先輩分かりにくい! 結局、何の進展もないまま私は二年生、 速瀬先輩は三年生に。 そして、わけの分からないアイツが入学してきた。
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