忘れられなくて

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    「本当ですよ。 柳川先輩に憧れてる奴、結構いますよ」 何気ない恋ばなの中で、 『私なんてモテないよ』 そんなさりげない私の一言に答えた彼からの言葉。 もちろん真に受けてなんていないけど、 私は聞き流す事ができなかった。 「嬉しいけど、 その中には速瀬くんも含まれてるの?」 速瀬海斗は中学二年生。 一つ年下のテニス部の後輩。 普段は穏やかで物静かだけど、 テニスをしている時の真剣な表情や 相手を追い込む気迫には、 精神の強さと頼もしさを感じていた。 『先輩』って慕ってくる日常に癒されつつも、それはすぐに特別な感情へと変わっていった。 そんな私の想いを知るよしもない海斗は、一瞬返答に困った様に、瞬きを二回繰り返したが、すぐに笑顔で 「もちろんですよ」 と照れて見せた。 「じゃあ速瀬くんの彼女にしてくれる?」 精一杯感情を抑えた初めての告白。 感情を抑えたのは、海斗の返答次第では 『冗談だよ』 ってごまかすための逃げ道。 海斗の困った顔、見るのは辛いから。 どうか迷わないで…… そんな想いと 迷う余地があるなら断らないで…… そんな想いが交差する中、 海斗が優しい微笑みを返す。 「俺なんかでいんですか?」 「速瀬くんがいいんだよ」 海斗がこの展開を望んでいたかは分からない。 ただのジョークだったのかもしれない。 軽く受け答えしただけなのかも。 それでも、その日から彼女づらする私を 、海斗は拒まなかった。 拒まなかったのは彼の優しさ? ……かもしれないけど、 それでも私は嬉しかった。 海斗と同じ時間を共に過ごせる事が、 ただ、嬉しかった。
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