恋に恋して

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「花乃ちゃーん」 外から私を呼ぶ声。 声の主はもちろん長谷川 涼。 やたらなついてくる一年生。 涼は私のいる家庭科室の窓から顔を覗かせた。 「何作ってんの?」 「何って、肉じゃがとかブリの照り焼きとか、」 私も真面目に答えちゃってる。 「おぉ、和食かぁ、いいねぇ。 楽しみにしてるよ」 まったくこの屈託のない笑顔に ついついペースを乱される。 「別に長谷川くんのために作ってるわけじゃないんだけど」 「あっ、俺の事『涼』でいいよ。 だから俺も『花乃』って呼んでいい?」 「じゃあ涼、授業は?」 「今から体育。サッカーなんだぁ。 花乃のためにシュート決めて来るよ!」 『花乃』って、私一応先輩なんですけど。 でも先輩風吹かせるのは好きじゃないから、その言葉は飲み込んだ。 「今度試合も見に来てよ。 絶対惚れるからさ」 涼はサッカー部。…って、一年生で試合出れんの? 「今度ね」 もうめんどくさいから適当に返事。 「やったぁー、絶対だよ。約束ね」 素直なのか? 単細胞なのか? 所詮まだ一年生。 可愛いっちゃあ、可愛いのかな? 涼の駆けて行く後ろ姿にそう思う。 「随分好かれちゃってるね」 肩を叩いてきたのは同じテニス部で親友の望月 雅美。 「面白がってるだけだよ」 「いっそアイツにしちゃったら? 速瀬先輩、脈薄いんでしょ?」 『脈薄い』って、雅美だってあの噂に便乗して私の事持ち上げてたくせに。 「例え速瀬先輩がダメでも涼は有り得ない!」 「どうして? 可愛いいじゃない」 確かに。 思わず頷きそうになるが慌てて首を振る。 「だってまだ一年生だよ。 一ヶ月前までランドセル背負ってたんだよ。バス運賃は半額、映画は父兄同伴だったんだよ」 雅美はアハハハハと笑い出す。 「何ムキになってるの? そんな事言ったら花乃だってランドセル背負ってたの一年前じゃん」 そうだけど、 「一年前と一ヶ月前じゃ大差なんだよ」 言って思った。 速瀬先輩にとっても私って、やっぱりまだガキなのかな? 「なんかさ…」 雅美が急に真顔になる。 「背伸びしてるみたい。 速瀬先輩に対して、無理してない?」 「そんな事…」 あるかも。 涼といる時と同じ様に、能天気でいられたら楽なのに、 速瀬先輩の前では、 疲れちゃうんだぁ。
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