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「柳川先輩の事は、テニスの先輩として尊敬してます」
そんなつもりはなかったのかもしれないけど、『テニスの先輩として』が、強調されて聞こえた。
「俺がここまでテニスが強くなった事、
ここまでテニスが好きになった事、
柳川先輩の影響は大きかった。
でも、
テニスは何処でも出来るから、
志野高にこだわる必要はないかなって思えて、」
「テニスをするなら志野高だよ。
志野高じゃなきゃ今の速瀬くんの実力は生かせない。テニスを辞めるのと一緒だよ」
私は海斗の言葉を遮る様に、思いをまくし立てていた。
そんな私とは逆に、冷静さを保つ海斗。
「今は、テニスよりも大事に思えるものがあるんです」
悲しかった。
それは、
海斗にとって、テニスがそれだけのものだったからなのか、
海斗にそこまで思われている名倉花乃に対してなのか、
とにかく
悲しかった。
俯く私を気遣かってか、
「考える時間、貰えますか?」
そう言う海斗に、私は頷くしかなかった。
「これだけは勘違いしないで欲しい。
テニスを志して、同じ苦しさや楽しさを共にしてきた同士だと思ってるから助言してるって事」
そうじゃなきゃ、海斗を好きになった事、後悔しちゃうじゃない。
お願い、後悔させないで。
「だったら、握手して貰えませんか?」
「えっ?」
一週間前、私が拒んだ握手を、今?
「同士として」
海斗が澄んだ瞳で私を見ている。
右手を差し出している。
「いい返事、期待してるからね。」
私は高鳴る鼓動と震える右手で海斗の手を握った。
「良かった」
海斗が呟く。
「何が?」
「握手出来た事」
あの時、私の勝手で拒んだ握手。
海斗にわだかまりを残してしまったかもしれない。
海斗は胸のつかえが取れた様に、ホッとした表情を見せた。
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