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大通りから一段上がった高台に、その館はあった。
敷地は広く、主人が居住する本館、使用人や駐在する兵が寝泊りする別館、そして蔵と厩が建っていた。
孫権軍の重臣・周瑜の館である。
庭には池があり、樹木のほか色とりどりの花が植えてあった。
朝の光がきらきらと、水面や木花を照らしている。
本館の窓辺に、淡い黄色の袍をまとった若い女が佇んでいた。
周瑜の妻・小喬である。
ほっそりとした色白で、髪はさらさらと背中まで伸び、右耳の横でゆるくひとつに束ねていた。
瞳は水晶のように澄んでいる。
小喬は籠を抱えていた。それをすいと自分の目の高さまで持ち上げた。
『だいぶ、育ちましたね』
中には小さな鳥が入っていた。
鮮やかな黄緑色の体で、目の周りが白く縁取られている。
繍眼鳥(めじろ)である。
春先、小喬が館の庭での花の手入れをしていた時のことだった。
ふと視界の隅に人の気配を感じ、そちらのほうを見てみると、館の中から周瑜が出てきたところだった。
小喬は声をかけようと立ち上がる。しかしその時、周瑜は人差し指を口元に当てた。
周瑜は何かを聞き取っているようだった。
夫の周瑜はとても耳が良く、他人より早く遠くの雷鳴の音を拾ったり、楽器のくるいに気付いては調律を施すほどだった。
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