繍眼鳥

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小喬の気持ちが塞いでいれば、笛や弦を弾いて聴かせ、長く留守にするならば、美しい字でさりげない詩文をよこす。 戦となれば、何百何千という人間を殺めてきているのであろうが、周瑜は必ず城で血を洗い流してから帰宅する。小喬には見せないように。そんな配慮もする。 小喬の心の中にはささやかながらも、周瑜に対する慕情の念が芽生えていた。 そして、娶られた相手に対して、自然な恋心を抱けるようになっていた小喬は、あきらかに、幸せな女の分類に属するだろう。 それを思うと、小喬は他の女たちに対して申し訳ない気持ちになる。 姉の大喬はすでに夫の孫策を亡くしている。 同じ時に娶られたというのに。 自分だけぬくぬくと笑って暮らすことなどできない。 時々心が罪悪感でいっぱいになり、気持ちが塞いでしまう。 小橋は、周瑜に対して自分の本心を伝えることなど考えられなかった。 『周瑜様…、私は恵まれております。…どうかそんな風におっしゃらないでください』 反面、そんな言い方しかできない自分がやるせなかった。 本当は、もう少し、あたたかい気持ちを抱いているのに。 周瑜は一瞬小喬を真顔で見つめると、ほほえんだ。
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