繍眼鳥

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『ありがとう、小喬』 その時、部屋の外から声がした。 『周瑜様、まもなく調練のお時間でございます。指揮のご準備をお願い致します』 『わかった、今行く』 周瑜は小喬の頬を両の手で包むと、額を寄せた。 『またしばらく留守にする。頃合を見て雛を放してやってくれ』 そして、そっと抱きしめると、踵を返して部屋を出ていった。 周瑜は水軍の調練に出ると、ひと月ふた月と留守にする。 兵たちの船上生活の訓練をするとともに、各拠点も巡回する。 今回の不在も、すでにふた月めが終わろうとしていた。 雛はすっかり大きくなっていた。 もう成鳥、どこから見てもメジロである。 周瑜に、時を見て放せと言われていたが、小喬は名残惜しくてできずにいた。 小橋は時々、部屋の中で放し、自由に飛ばせていた。 すいと手を伸ばすと、メジロはその指に止まった。 『あなたは、どこに行きたい?』 ふと、聞いてみる。 メジロは、小喬の指からひらりと飛び立つと、窓の桟に止まった。 そして、窓をくちばしでコツコツとつつく仕草を見せる。 『はあ…、やっぱりそうよね。外に出たいわよね…』 小喬は小さく息を吐くと、メジロのいる窓辺へ歩み寄った。
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